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神経性過食症について(各論) 中編

前回等に引き続き、摂食障害に関するコラムです。

 

今回は、過食症(神経性過食症)の詳細をみていきます。

 

DSM-5による記述に解説を加える形で進めていきます。

 

DSM‐5に関する説明は、以下のコラムをご参照ください。

 

 

https://www.pelikan-kokoroclinic.com/%e8%a8%ba%e6%96%ad%e5%9f%ba%e6%ba%96icd%e3%81%a8dsm/

 

 

 

 

診断的特徴

 

神経性過食症には三つの本質的特徴がある。すなわち、反復する過食エピソード(基準A)、反復する体重増加を防ぐための不適切な代償行動(基準B)、体型及び体重によって過度に影響を受ける自己評価(基準D)、である。

 


[解説]神経性過食症の3つの特徴です。

 

①過食を繰り返していること
②体重が増えないように代償行動(多くが嘔吐)をとっていること
③体型、体重によって自己評価が強く影響されている(多くは自尊心が低くくなる)こと

 

これは、常に神経性過食症の中核として、患者さんを苦しめるものになっています。

 

 

診断を満たすためには、過食及び不適切な代償行動は平均して3ヶ月の間に少なくても週一回は起こっていなければならない(基準C)。

 

[解説]診断基準上は3か月間以上、週1回以上が必要です。

患者さんが悩んで受診される時点では、ほぼこの条件は満たしています。

 

 

①過食エピソード

 

「過食エピソード」は、他とははっきり区別される時間帯に、ほとんどの人が同様の状況で同じ時間内に食べる量よりも明らかに多い食物を食べることと定義される(基準A1)。食べることの起こる状況は、摂食量が多すぎるかどうかのでしょうかの判断に影響を与えるかもしれない。たとえば、通常の食事では多すぎるとみなされるかもしれないような食物の量でも、祝賀会または休日の食事なら普通とみなされるかもしれない。

[解説]「明らかに多い」の明確な基準は作りようがないのでありませんが、神経性過食症に悩む患者さんの多くは自ら「多い」と感じていらっしゃいます。

 

「他とはっきり区別される時間帯」は、普通2時間以内の限定された時間帯を指す。

 

[解説]下記にもありますが、もし少量を少しずつ何時間にもわたって食べている場合は、過食とは言わないこととなっています。

よって、ある一定の時間、つまり通常2時間以内に過食が起こることが定義として求められています。

 

単一の過食エピソードは一つの場面に限定する必要はない。例えば、レストランで過食がはじまり帰宅中も食べ続けることがある。

 

[解説]途中で場面が変わっても、連続しているならば「1回」と数えます。 

 

1日中少量の食物を少しずつ食べ続けることは、過食とはみなされないだろう。

 

[解説]少量を持続的に食べることは、過食ではありません。

 

過度の食物消費が起こることには、それを過食エピソードとみなすために、抑制不能という感覚(基準A2)を伴わなければならない。抑制不能の指標は、食べないでいたり、一旦始まれば食べるのを止めたりすることができないことである。過食エピソードの間または過食エピソードの後に解離性の内容について報告する人もいる。過食に関連した抑制不能は絶対的なものではない。例えば、電話が鳴っている間は過食を続けていたとしても、同室者又は配偶者が予期せず部屋に入ってきた時は過食をやめるかもしれない。自分の過食エピソードは急に生じる抑制不能の感覚によって特徴付けられるのではなく、むしろ抑制できない摂食のより全般化した様式によって特徴付けられると報告する人もいる。食事を抑制する努力を放棄してしまったと報告するならば、抑制不能が存在するとみなすべきである。

 

[解説]これも重要なポイントですが、基本的には一旦食べ始めると自分ではコントロールできなくなります。

コントロールできているなら、それは単に自由意志で食べているだけとなり、問題とはなりません。

 

場合によっては過食が計画されることもありうる。過食の間に消費される食物の種類は人によっても異なるし、同じ人でもその時々で異なる。過食は一見、特定の栄養物を欲するということよりも、消費される食物の量の異常さによって特徴づけられるように思われる。しかし、過食の間は、その他の時にその人が避けようとする食物を食べる傾向がある。

 

[解説]過食する食物としては、多くの方がパン、麺、白米など炭水化物を選択するようです。

肉や魚を過食する人は、あまり多くありません。

それは主には過食しやすいかどうかが影響していると思われます。

物理的な噛みやすさ、飲み込みやすさ(肉、魚は大量には食べられない)のほかに、実際上の入手のしやすさ、経済的な面(炭水化物の方が安く大量に簡単に入手できる)もあります。

 

神経性過食症の人は概して自分の食事の問題を恥ずかしく思い、症状を隠そうとする。過食は通常密かに、あるいはできるだけ目立たないように行われる。

 

[解説]家族のいる前に過食する方は少なく、多くの方は自室や夜間に過食します。

 

 

過食は満腹で気持ち悪くなるまで、あるいは胃が痛くなるまで続くことが多い。

 

[解説]過食が止まるのは自分で意識して止める方は少なく、気持ち悪くなり嘔吐したり、胃痛などによってようやく止まります。

 

過食の前に最もよく見られるのは、不快な感情である。その他のきっかけとしては、対人的ストレス因、食事制限、体重および体系及び食物に関する嫌な気分、退屈などがある。過食は短期間でこれらのエピソードを始めさせた要因を小さくしたり弱めたりするかもしれないが、否定的な自己評価と深い気分がしばしば遅れて生じてくる。

 

[解説](1回毎の)過食が始めるきっかけはいくつかありますが、その直前にネガティブな気持ちが発生して、それを回避する、忘れるためというのはしばしばみられます。

年単位の経過の方は、明確なきっかけはなく、”クセ”になっていて、逆に過食嘔吐をしないと落ち着かないということもよくみられます。

 

 

②排出行動(パージング)

 

 

神経性過食症のもう一つの本質的な特徴は、体重増加を防ぐために不適切な代償行動の使用を繰り返すことであり、これらの行動はまとめて排出行動またはパージングと呼ばれる(基準B)。

 

[解説]2つ目の特徴は、過食したままですと体重が増えてしまうので、それを防ぐ行動をとることで、これを排出行動といいます。

 

神経性過食症の人の多くは、過食を代償するために複数の手段を使う。嘔吐は最もよくある不適切な代償行動である。嘔吐の直接的な効果は、身体的な不快感からの解放と体重増加への恐怖の軽減である。症例によっては、嘔吐がそれ自体目的となって、吐くために過食しようとしたり、少量の食物を食べた後でも吐こうとしたりする。神経性過食症の人は嘔吐を引き起こすために様々な方法を用いることがある。例えば、咽頭反射を刺激するために指や道具を用いる。通常は嘔吐を誘発することが上手くなり、ついには意のままに吐けるようになる。まれに、嘔吐を誘発するために吐根シロップを使う人がいる。他の排出行動に、緩下剤及び利尿薬の乱用がある。数多くあるその他の代償方法もまた、まれに用いられる。神経性過食症の人は浣腸を乱用することがあるが、これがその人が用いる唯一の方法であることは滅多にない。この障害の人は体重増加を避けようとして甲状腺ホルモンを服用することがある。糖尿病と神経性過食症がある人は、過食の間に消費された食物の代謝を少なくするためにインスリンの投与を省略したり減らしたりすることもある。神経性過食症の人は、体重増加を防ごうとして、1日以上の期間絶食をしたり過剰な運動を行ったりすることもある。運動が過剰であるとみなされるのは、それが重要な活動を意味のあるほど妨げたり、不適切な時や不適切な場面で行われたり、外傷または他の医学的疾患にもかかわらず運動を続けたりする場合である。

 

[解説]日本では、ほとんどの方が、排出行動の具体的な手段として嘔吐を用いています。

その他の手段が通常はなかなか入手できないということも関係していると思われます。

また、嘔吐が食物を吸収、消化しないという点で、もっとも”根本的”対応であるということもあるでしょう。

 

 

③体型、体重に強く影響される自己評価

 

神経性過食症の人は自己評価の際に体型または体重を過度に重視し、これらの要因は概して自分を尊重しうるかどうかを図る上で極端に重要となっている(基準D)。この障害を持つ人は、体重増加への恐怖、体重減少への欲求、及び自分の身体への不満の程度において、神経性やせ症の人と非常によく似ているかもしれない。しかし、障害が神経性やせ症のエピソードの期間にのみ生じる場合には、神経性過食症の診断を下すべきではない。

 

[解説]多くの方が、体型、体重が客観的には「肥満」(傾向)でなかったとしても、つまり結果が満たされているように第三者からは見える状況でも、満足することはありません。

自分が「劣っている」と捉えて、自尊心を保つことが難しくなっています。

 

 

診断を支持する関連特徴

 

神経性過食症の人は一般に、正常体重または過体重の範囲にある(成人では BMI≧18.5および<30)。しかし、この障害は肥満の人にはあまり見られない。過食と過食の間では、神経性過食症の人はカロリー消費の総量を制限してもっぱら低カロリーの(”ダイエットのための”)食物を選び、自分が肥満すると感じたり過食の引き金になりそうな食物を避けたりするのである。

 

[解説]これも広義の代償行動とも捉えらえますが、過食していないときはなんとか痩せようと、低カロリーの食べ物を選んだり、絶食したりすることがあります。

 

神経性過食症の女性では、月経不順または無月経がしばしば生じる。この障害が体重変動と関係しているのか、栄養不足と関係しているのか、感情面での苦痛と関係しているのかははっきりしない。

 

[解説]メカニズムはまだ明確には解明されていませんが、多くの女性の方で月経に関するトラブルが生じます。

 

排出行動の結果生じるた体液または電解質異常はしばしば重篤になり、医学的に深刻な状態に陥る。まれだが致命的な合併症には、食道断裂、胃破裂、不整脈がある。重篤な心筋傷害および骨格筋障害が、嘔吐を誘発するために吐根シロップを反復使用している人に生じたことが報告されている。慢性的に緩下剤を乱用している人は、 腸管運動を刺激するために緩下剤の使用に依存するようになる。胃腸症状は神経性過食症によく合併し、直腸脱もこの障害の人の中で報告されている。

 

[解説]後述の「診断的マーカー」にも記載されていますが、特に代表的なものとして、低カリウム血症があります。

これは場合によっては致死的な不整脈を引き起こし得るため、非常に危険です。

 

 

有病率

 

若い女性における神経性過食症の12ヶ月有病率は、1~1.5%である。この障害は青年期後期及び成人期早期に頂点に達するため、時点有病率は成人期前期で最も高くなる。男性における神経性過食症の時点有病率についてはあまり知られていないが、神経性過食症は男性においては女性におけるよりずっと少なく、男女比はおよそ1対10である。

 

[解説]男性の患者さんはまれで、おおよそ女性のおよそ1割程度です。

 

 

症状の発展と経過

 

神経性過食症は通常青年期または成人期早期に始まる。思春期以前または40歳以降の発症は珍しい。

 

[解説]多くの方が10代中頃から20代前半で発症します。

 

 

過食は、体重を減らすためのエピソードの最中または後に始まることが多い。

 

[解説]最初から過食する方は多くなく、一度体重を落とそうとした時期中か後から起こることが多いです。

 

複数のストレスの強い人生上の出来事を経験することもまた、神経性過食症の発症を引き起こすことがある。

 

[解説]発症要因は様々ですが、ショックな出来事から生じることもあります。

 

乱れた食行動は、通院している症例の大部分において少なくとも数年間持続する。

 

[解説]数か月程度で収まることは少なく、数年以上続くことが多いです。

 

経過は慢性的であったり、過食が再発しては再び寛解期に入るというように断続的であったりする。

 

[解説]経過は様々ですが、慢性(持続的)であったり、落ち着いている時期と過食の時期が交互に訪れることもあります。

 

しかし長期間経過を観察すると、治療は明らかに結果に強い影響を与えるものの、多くの人の症状は治療の有無に関わらず少なくなるようである。

 

[解説]ここは重要なポイントですが、実は多くの方が最終的には軽快していきます(ずっと続くわけではないということです)。

 

1年以上寛解期があることは、長期予後の良さと関係している。

 

[解説]特に、1年以上落ち着いている時期があると、その後の長期的な結果は良いとされています。

 

神経性過食症では、死亡の危険性が(総死亡率も自殺による死亡率も)有意に高いと報告されてきた。神経性過食症の粗死亡率は10年間でおよそ2%である。

 

[解説]神経性過食症では、合併症や自殺によって、死亡率が平均より上昇しています。

単なる「食べ吐きの病気」ではないという認識が大切です。

 

当初の神経性過食症から神経性やせ症への診断的な移行が生じるのは少数例である(10~15%)。神経性やせ症への移行を経験する人は通常、神経性過食症に戻るか二つの障害の間の移行を何度も繰り返るかのいずれかである。神経性過食症の人の一部は、過食を続けるけれども不適切な代償行動を行うことがなくなるため、その症状は過食性障害か他の特定される摂食障害の診断に合致するようになる。診断は、現在の(すなわち、過去3か月間の)臨床所見に基づいてなされるべきである。

 

[解説]神経性過食症から神経性やせ症に移行する方は少数で、移行してもそのままやせ症が続くことは少なく、多くは神経性過食症に1回は戻ります。

 

 

危険要因と予後要因

 

気質要因:体重への関心、低い自尊心、抑うつ症状、社交不安症、小児期の過剰不安症は、神経性過食症発症の危険の上昇と関連している。

 

[解説]患者さん自身の傾向として、もともと体重に強い関心がある、自尊心が低い、気分が落ち込みやすい、(人前などで)緊張しやすい、幼少期から過剰に不安になりやすい、などがあると、神経性過食症を発症しやすいとされています。

 

環境要因:痩身を理想とする風潮を取り込むことによって体重への関心が増大する危険が高まり、さらに神経性過食症が発展する危険が高まることが分かっている。小児期に性的あるいは身体的虐待を経験した人は、神経性過食症を発症する危険が高い。

 

[解説]この記載自体は米国のものですが、日本でも「痩せている方が綺麗、美しい」という社会的価値観が広く浸透しています。

また、幼少期に虐待を経験することで、健康なこころが育ちにくくなり、将来神経性過食症などを発症しやすくなるのも想像に難くありません。

 

遺伝要因と生理学的要因:小児期の肥満と早い第二次性徴は、神経性過食症の危険を高める。神経性過食症の家族内伝達が存在するようであり、この障害の遺伝的脆弱性もあるのかもしれない。

 

[解説]幼少期から肥満であったり、第二次性徴(女性では月経の開始)が早いことも、神経性過食症の発症に関連していることがわかっています。

また、最近は遺伝性の部分もあるのではと言われていますが、まだ明確にはなっていません。

 

経過の修飾要因:精神的併存症が重症であることは、神経性過食症の長期的転帰の悪さを予測する。

 

[解説]神経性過食症では、例えばうつ病などを併存(合併)しやすいですが、うつ病が重いほど、神経性過食症も治りにくい傾向にあります。

 

 

文化に関連する診断的事項

 

神経性過食症、米国、カナダ、 多くの欧州の国々、オーストラリア、 日本、ニュージーランド、南アフリカなどの最も工業化された国において、ほぼ同様の頻度で生じると報告されている。米国での神経性過食症の臨床研究では、この障害を示す人は主に白人である。しかし、この障害は他の民族集団においても、白人で観察される推定有病率と同等の有病率で生じている。

 

[解説]興味深いことに、文化圏が異なるはずの複数の国々で、神経性過食症の発症率はあまり変わらないことがわかっています。

また、人種間での差もあまりないことも研究にて示されてきています。

 

 

性別に関連する診断的事項

 

神経性過食症は男性より女性にずっと多く見られる。男性は特に受診する人達だけでは標本として不十分であり、そのためにまだ系統的には調査されていない。

 

[解説]上述されていますが、男性の患者さんは女性の約1割程度であり、絶対数が少ないため、男性の患者さんの特徴はまだ不明です(女性の患者さんとは違った傾向があるのかもしれないですが、研究が進んでいないということです)。

 

 

診断的マーカー

 

神経性過食症に特異的な診断検査は、現時点では存在しない。しかし、いくつかの検査上の異常が排出行動の結果として生じ、診断の信頼性を高めているものがある。

 

[解説]現時点で、「これがプラスだと神経性過食症と診断できる」という検査は、開発されていません(つまり、従来の丁寧な問診がやはり重要ということです)。

 

それには、(不整脈を引き起こし得る)低カリウム血症、低クロール血症、低ナトリウム血症などの体液及び電解質の異常が含まれる。嘔吐による胃酸の喪失は代謝性アルカローシス(重炭酸塩の上昇)を引き起こすことがあり、また緩下剤及び利尿薬の乱用によって下痢または脱水が頻繁に起こることで代謝性アシドーシスが生じることもある。神経性過食症の人の中には血清アミラーゼが軽度上昇を示す人がいるが、それはおそらく唾液由来のイソ酵素の上昇を反映している。

 

[解説]特に有名なのは低カリウム血症です。カリウムというミネラルが不足すると、生命に危険なレベルの不整脈が起こることがあり、非常に危険です。

 

身体検査を行っても、通常身体所見はない。しかし口腔内の精査によって、嘔吐を繰り返すために特に前歯の舌側表面からのエナメル質が優位に永久的に喪失していることが明らかになることがある。これらの歯は薄くなり、ぼろぼろで”虫が食った”ように見える。齲歯になる頻度も高い。人によっては、唾液腺、特に耳下腺が著しく肥大する。手で咽頭反射を刺激することによって嘔吐を誘発する人は、歯に繰り返し接触することから手の甲に硬結または傷痕ができる。重篤な心筋傷害および骨格筋障害が、嘔吐を誘発するために吐根シロップを繰り返し用いる人に報告されている。

 

[解説]繰り返しの嘔吐によって歯は痛みます。齲歯(虫歯)にもなりやすいです。最終的には歯がなくなり、義歯(入れ歯)にせざるを得なくなることもあります。

 

 

自殺の危険性

 

神経性過食症では自殺の危険性が高い。この障害を持つ人を包括的に評価するためには、自殺に関連した観念及び行動、さらに自殺企図歴など、自殺に対するその他の危険要因を調べるべきである。

 

[解説]神経性過食症で、最も注意すべきはそれが単に摂食行動(食べる、吐く)だけにとどまらず、最も悲しむべき事態を引き起こし得るということです。

摂食行動の改善も重要ですが、これだけはなんとか回避することが治療の第一優先目標となります。

 

 

神経性過食症の機能的結果

 

神経性過食症の人は、障害と関連したある範囲で機能上の制限を示すことがある。社会生活領域が神経性過食症によって最も不利な影響を受けやすいため、少数の人が深刻な役割上の問題を報告している。

 

[解説]神経性過食症によって、社会生活が制限されてしまうこともあります。仕事や学校をつづられなくなり、退職、退学せざるを得なくなることもあります。そうすると余計にご本人にとってこころの傷が深くなります。

 

 

鑑別診断

 

神経性やせ症、過食・排出型:過食行動が神経性やせ症のエピソードの期間だけにしか起こらない人には、「神経性やせ症、過食・排出型」の診断が与えられ、神経性過食症の追加診断を下すべきではない。過食嘔吐があり、当初神経性やせ症と診断されたけれども、現在は「神経性やせ症、過食・排出型」の全ての基準を満たさなくなれば(例:体重が正常になった場合)、神経性過食症のすべての診断基準を少なくとも3ヶ月間にわたって満たしている場合に限り、神経性過食症の診断を下すべきである。

 

[解説]神経性過食症では、神経性やせ症の期間がなかったかを確認する必要があります。神経性やせ症でも過食行動が起こることがあるからです。

 

過食性障害:過食をしても適切な代償行動を常々は行わない人がいる。これらの症例では、過食性障害の診断を考慮すべきである。

 

[解説]前回のコラムでも記載しましたが、過食症の診断上必須項目の1つに代償行動を行ことがあります。逆に言えば、代償行動がなければ、過食症ではなくこの過食性障害の方が当てはまります。

 

クライネーレヴィン症候群:クライネーレヴィン症候群のようなある種の神経疾患または他の医学的疾患において、食行動の乱れが認められるが、体型および体重への過度の関心のような神経性過食症に特有の心理学的特徴がない。

 

[解説]神経性過食症に限らずですが、精神疾患、精神障害のように見えて、実は身体疾患が原因であったということがあります。もしこころの面でのトラブルがないようでしたら、一度は身体疾患を考慮すべきです。

 

非定型の特徴を伴ううつ病:食べ過ぎる状態は非定型の特徴を伴ううつ病にはよく見られるが、この障害のある人は不適切な代償行動を行わないし、神経性過食症に特徴的な体型および体重への過度の関心を示さない。もし両者の基準を満たせば、両方の診断を下すべきである。

 

[解説]定型のうつ病では食欲が低下すること(食思不振と言います)が一般的ですが、非定型のうつ病の場合は(結果として)過食になることがあります。ただし、体型や体重への関心の程度で見分けることが可能です。

 

境界性パーソナリティ障害:過食行動は、境界性パーソナリティ障害の診断の一部に含まれている衝動行為の基準に含まれている。もし境界性パーソナリティ障害と神経性過食症の両方の基準を満たす場合は、両方の診断を下すべきである。

 

[解説]境界性パーソナリティー障害では、過食行動はしばしばみられます。オーバーラップすることもあり、その場合は2つとも発症していると考えます。

 

 

併存症

 

精神疾患の併存症は神経性過食症の人によく見られ、ほとんどの人が少なくとも一つは他の精神疾患を経験し、多くの人は複数の併存症を経験している。併存症は特定の一群に限定されず、幅広い範囲の精神疾患が起こる。神経性過食症の人は、抑うつ症状(例:低い自尊心)と双極性障害群あるいは抑うつ障害群(特に抑うつ障害群)の頻度が高い。多くの人において気分の障害は神経性過食症の発症と同時かそれに引き続いて生じ、しばしば自分の気分の障害が神経性過食症のせいだと考えている。しかし、気分の障害が明らかに神経性過食症の発展に先行している人もいる。不安症状(例:社交的場面への恐怖)または不安障害群も頻度が高い。これらの気分および不安の障害は、神経性過食症に対して有効な治療が行われた後に寛解することが多い。

 

[解説]神経性過食症に伴う疾患は複数ありますが、やはりうつ病、または躁うつ病が最多です。両者には相互的な深い関係があり、治療も同時並行的に行っていく必要があります。

また、危険要因の項目の記載とも関連しますが、不安(症状、障害)も神経性過食症とつながっていることがわかっています。

 

物質使用、特にアルコールまたは精神刺激薬使用の生涯有病率は、神経性過食症の人では少なくとも30%になる。神経刺激薬使用は、食欲および体重を抑制しようとして始まることが多い。

 

[解説]摂食障害を嗜癖(依存症)の一種とみる見方は以前からあり、その代表であるアルコールも関わってくることがあります。

 

神経性過食症の人はかなりの割合で、一つ以上のパーソナリティ障害の診断基準を満たすようなパーソナリティーの特徴を持っている。最も多く見られるのが境界性パーソナリティ障害である。 

 

[解説]ベースにパーソナリティーのトラブルを抱えている方は多くいらっしゃいます。その上に神経性過食症、さらにうつ病/躁うつ病を発症していることも度々みられます。