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神経性無食欲症(拒食症)について(各論) 前半

前回に引き続き、摂食障害に関する解説をしていきます。

 

今回は、神経性無食欲症(拒食症)を解説します。

 

ICD-10とDSM-5の記述を見ながら、解説を加えます。

 

ICD-10とDSM-5そのものの解説は、こちらのコラムをご参照ください。

 

https://www.pelikan-kokoroclinic.com/%e8%a8%ba%e6%96%ad%e5%9f%ba%e6%ba%96icd%e3%81%a8dsm/

 

F50.0 神経性無食欲症 Anorexia nervosa(ICD-10)

 

 

神経性無食欲症は患者自身によって引き起こされ,および/または維持される意図的な体重減少によって特徴づけられる障害である.

 

 

 [解説]想像しやすいと思いますが、自らの行動による体重減少が起きているものと定義します(これをわざわざ言っているのは、例えば強制的に食べさせられないで体重が減少している場合などは該当しない、ということです。)

 

 

この障害は青年期の女子と若い成人女性に最もよくみられるが,まれに青年期の男子や若い成人男性にみられることもあり,思春期に近い子どもや閉経期にいたるまでの年長の女性にもみられることもある.

 

 

 [解説]これも想像しやすいかと思いますが、やはり圧倒的に女性に多いです。これは多くの理由がありますが、一番わかりやすいのは女性の方に社会上スリムな体型が好まれることがあるでしょう。(なぜ好まれるかは、社会文化学的な領域になるので、ここでは議論しません。)

 

 

神経性無食欲症は以下の点で独立した症候群を成している.

 

 

(a)この症候群の臨床的特徴は容易に認めうるので,診断は臨床家の間で一致率が高く信頼できる

 

 

 [解説]鑑別疾患といって、他に考えられる精神疾患が少ない、またはある場合はすぐに診断可能な場合が多いためです(例えば、体重減少が起きていても、明らかな抑うつ状態ならばそれはむしろうつ病であるとわかる)。

 

 

(b)予後調査によれば,回復していない患者のかなりの部分に神経性無食欲症の同じ症状が慢性的に存在している.

 

 

 [解説]多くの精神疾患の症状として、食事量低下がみられます。回復していれば食事量は通常量のはずですので、逆に言えば回復していなければ、食事量は低下したままであり、それは本症と同症状となる、ということです。

 

 

原因

 

神経性無食欲症の根本的な原因はまだ明らかではないが,相互に影響しあう社会文化的および生物学的要因,さらに特異性は低いが心理機制および人格の脆弱性も発生に寄与しているという証拠が増えている.

 

 

 [解説]原因は1つではなく、複合的な要因と考えられています。

 

二次的な障害

この障害は種々の段階の低栄養状態を伴い,その結果,二次的な内分泌と代謝の変化および身体機能の障害を生じる.
特徴的な内分泌障害がすべて低栄養とこれをもたらす種々の行動(たとえば,食物選択の制限,過度の運動と体格の変化,嘔吐の誘発と緩下薬の使用およびそれに伴う電解質異常)の直接の結果によるものかどうか,あるいは不明な要因も含まれているのかどうか疑問が残っている.

 

 

 [解説]栄養状態が悪化すると、種々の体調不良を来たします。ホルモンバランスの変化などは特に起こりやすく、女性ですと生理不順などは想像しやすいかもしれません。

 

診断ガイドライン

確定診断のためには,以下の障害のすべてが必要である.

 

(a)体重が(減少したにせよ,はじめから到達しなかったにせよ)期待される値より少なくとも15%以上下まわること,あるいはQuetelet’s body-mass indexが17.5以下.
前思春期の患者では,成長期に本来あるべき体重増加がみられない場合もある.

 

 

 [解説]BMI(Body Mass Index)は、国際的に用いられる、肥満・やせ度をはかる数値で、
体重(kg)÷ 身長(m)^2 (体重÷身長÷身長)
で計算されます。
やせの基準となる数値はいくつかありますが、ICD-10では17.5以下となっています。
日本人の女性の平均身長は158㎝ですから、それで計算すると43.7kg、つまりおおよそ44kg以下の方が該当します。

 

 

(b)体重減少は「太る食物」を避けること.また,自ら誘発する嘔吐,緩下薬の自発的使用,過度の運動,食欲抑制薬および/または利尿薬の使用などが1項以上ある.

 

 

 [解説]「太る食物」が何かという問題はありますが、炭水化物、脂質、蛋白質を含む食べ物(つまり通常の食事のほとんど)を避ける傾向が認められます。
また、喉に指を突っ込み自ら嘔吐したりします。
慣れてくるとトイレで下を向くだけで自然に嘔吐できるようになってしまいます。
下剤を使う方は、強迫的に運動をする方もいます。
薬剤を入手可能な方は、利尿薬を服用したりもします。
これらの行動が1つ以上みられることが、診断上必要とされています。

 

 

(c)肥満への恐怖が存在する.その際,特有な精神病理学的な形をとったボディイメージのゆがみが,ぬぐい去りがたい過度の観念として存在する.
そして患者は自分の体重の許容限度を低く決めている.

 

 

 [解説]精神医学では有名な言葉として、「ボディイメージの障害」というものがあります。ボディイメージ、つまり「(自分の、あるいは他者の)体型はこうあるべき」というシルエットが多数派からかなり離れており、自分がそこから(自分の理想から)外れることに強い拒否感、恐怖を感じます。

 

 

(d)視床下部下垂体性腺系を含む広汎な内分泌系の障害が,女性では無月経,男性では性欲,性的能力の減退を起こす(明らかな例外としては,避妊用ピルとして最もよく用いられているホルモンの補充療法を受けている無食欲症の女性で,性器出血が持続することがある).
また成長ホルモンの上昇,甲状腺ホルモンによる末梢の代謝の変化,インスリン分泌の異常も認められることがある.

 

 

 [解説]女性で最も多いのは、月経に関することで最も重い方は無月経となります。

 

 

(e)もし発症が前思春期であれば,思春期に起こる一連の現象は遅れ,あるいは停止することさえある(成長の停止.少女では乳房が発達せず,一次性の無月経が起こる.少年では性器は子どもの状態のままである).
回復すれば思春期はしばしば正常に完了するが,初潮は遅れる.

 

 

 [解説]児童の最重症の方は、脳の萎縮もみられることが報告されています。

 

鑑別診断

抑うつ的あるいは強迫的な症状,同様にパーソナリティ障害の諸特徴を伴うことがあり,これが鑑別診断を困難にし,および/または複数の診断コードを用いる必要が生じさせる.
若い患者で鑑別を要する体重減少の身体的原因としては,慢性消耗性疾患,脳腫瘍,クローン病や吸収不全症候群のような腸の障害がある.

 

 

〈除〉食息不振(R63.0)
心因性食思不振(F50.8)

 [解説]摂食症状だけの方はむしろ少なく、通常気分の波などの症状を伴います。

 

 

F50.1 非定型神経性無食欲症 Atypical anorexia nervosaこの用語は,無月経あるいは顕著な体重減少のような神経性無食欲症(F50.0)の鍵となる症状が1つ以上欠けているが,その他は典型的臨床症状を示す患者に対して用いるべきである.
このような患者には通常,給食病院の精神科リエゾン治療やプライマリケアで遭遇する.
鍵となる症状がすべてあるが,軽度にすぎないという患者も,この用語で最もよく表される.
この用語は神経性無食欲症に似た身体疾患による摂食障害には用いるべきではない.[解説]単純には、上述の神経性無食欲症の軽症パターンです。治療上は、上に準じたものとなります。

 

 

 

神経性やせ症/神経性無食欲症(DSM-5)

 

A.必要量と比べてカロリー摂取を制限し、年齢、性別、成長曲線、身体的健康状態に対する有意に低い体重に至る。
有意に低い体重とは、正常の下限を下回る体重で、子どもまたは青年の場合は、期待されている最低体重を下回ると定義される。

[解説]下にBMIによる重症度分類があります。最重症の場合は、BMI<15 kg/㎡と定義されています。

 

B.有意に低い体重であるにもかかわらず、体重増加または肥満になることに対する強い恐怖、または体重増加を妨げる持続した行動がある。

[解説]ICD-10と同様ですが、すでに痩せているにもかかわらず、体重が増えることに強い恐怖を覚えることが特徴です。よって、周囲の「既にやせているから、大丈夫」という言葉が、なかなか本人に届かないことがあります(届かないからと言って、言う意味がないとはまた別です。)

 

C.自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如。

[解説]これも上述のボディイメージの障害と同様です。そして、極度のやせ状態では生死にかかわることもありますが、それへの認識も十分にはもてないことが多いです。

 

いずれかを特定せよ
(50.01)摂食制限型:過去3ヵ月間、過食または排出行動(つまり、自己誘発的嘔吐、または緩下剤・利尿薬、または浣腸の乱用)の反復的なエピソードがないこと。

[解説]ひたすら食べないで、やせようとするタイプです。

(50.02)過食・排出型:過去3ヵ月間、過食または排出行動(つまり、自己誘発的嘔吐、または緩下剤・利尿薬、または浣腸の乱用)の反復的なエピソードがあること。

[解説]経過の途中で、過食や嘔吐、下剤の乱用をしているタイプです。

 

該当すれば特定せよ
部分寛解:かつて神経性やせ症の診断基準をすべて満たしたことがあり、現在は基準A(低体重)については一定期間満たしていないが、基準B(体重増加または肥満になることへの強い恐怖、または体重増加を回避する行動)と基準C(体重および体型に関する自己認識の障害)のいずれかは満たしている。
完全寛解:かつて神経性やせ症の診断基準をすべて満たしていたが、現在は一定期間診断基準を満たしていない。

[解説]部分寛解は、体重は最低限あるものの、基準BまたはCはいまだにあるタイプ、完全寛解は全て満たさないタイプです。

 

現在の重症度を特定せよ
重症度の最低限の値は、成人の場合、現在に体格指数(BMI:Body mass index)(下記参照)に、子どもおよび成人の場合、BMIパーセント値に基づいている。
下に示した各範囲は、世界保健機関の成人のやせの分類による。
子どもと青年については、それぞれに対応したBMIパーセント値を使用するべきである。
重症度は、臨床症状、能力低下の程度、および管理の必要性によって上がることもある。

[su_table responsive=”yes” alternate=”no”]

重症度 BMI 身長158㎝の場合の体重(㎏)
軽症 ≧17kg/㎡ ≧42.4
中等度 16~16.99 kg/㎡ 39.9~42.3
重度 15~15.99 kg/㎡ 37.4~39.8
最重度 <15 kg/㎡ <37.4

[/su_table]

 

[解説]日本人の女性の平均身長158㎝の場合の体重を記載しました。
この分類の数字もあくまで参考ではありますが、目安として用いることがあります。